変形性膝関節症
症状
女性に多くみられ、高齢者になるほど罹患率は高くなります。主な症状は膝の内側の痛みです。初期では立ち上がりや歩き始めなど動作の開始時に痛み、休めば痛みがとれますが、徐々に正座や階段の昇降が困難となり、末期になると安静時にも痛みがとれず、変形が目立ち歩行が困難になります。変形はO脚が多く、荷重ストレスが内側に偏るため膝の内側の痛みが多いです。
原因と病態
原因は関節軟骨の老化、肥満や素因(遺伝子)などが関与しています。また骨折、靱帯損傷や半月板損傷などの外傷、化膿性関節炎などの感染の後遺症として発症することがあります。加齢によるものでは、関節軟骨が年齢とともに弾力性を失い、遣い過ぎによりすり減り、関節が変形します。また、日本人の多くがO脚のため、荷重ストレスが内側に偏り、内側の関節軟骨損が起きやすいです。
診断
問診や診察、時に触診で膝内側・外側の圧痛の有無、関節の動きの範囲、腫れや変形(O脚、X脚)の有無を調べ、X線(レントゲン)検査で診断します。必要によりMRI検査などをします。
予防
日頃から膝に負担がかかりにくい動作を意識するように心がけましょう。日常生活での注意点は下記の通りです。
- ふとももの前の筋肉(大腿四頭筋)を鍛える。
- 正座をさける。
- 肥満であれば減量する。
治療
症状が軽い場合は痛み止めの内服薬や外用薬を使用したり、膝関節内にヒアルロン酸の注射などをします。また大腿四頭筋強化訓練、関節可動域改善訓練などの運動器リハビリテーションを行ったり、足底板や膝装具を作成することもあります。
このような治療でも治らない場合は手術治療を検討します。これには膝周囲骨切り術(骨を切って変形を矯正する)、人工膝関節置換術などがあります。
膝周囲骨切り術について
当院で行なっている膝周囲骨切り術は、主に高位脛骨骨切り術でOWHTO(内側楔状開大式高位脛骨骨切り術)とOWDTO(内側楔状開大式脛骨粗面下骨切り術)の2種類になります。日本人の多くはO脚で荷重時のストレスが内側に偏っており、高位脛骨骨切り術は、この偏った膝の内側への荷重ストレスを膝の中心から外側に分散させる事により、痛みを和らげ、関節の変形進行を予防出来ます。 この手術の最大のメリットは自分の関節を温存させる事ができるため、膝の曲げ伸ばしが制限されず、運動制限も必要ありません。また、もともと膝の曲がりが良ければ手術後に正座が出来る可能性もあります。農業等の膝を深く曲げて行う仕事に従事している患者さんには最適な手術と考えます。
OWHTOとOWDTOの違い
どちらも脛の骨(脛骨)の内側から外側にかけて骨を切り、骨を切った部分を開いてO脚の矯正を行います。違いは脛の骨の出っ張っているところ(脛骨粗面)に膝蓋腱という腱が着くのですが、その上で骨を切るか、下で骨を切るかの違いになります。OWHTOは膝蓋腱の上で骨を切ります。ただ、矯正の角度が大きいと膝の皿(膝蓋骨)とふとももの骨(大腿骨)の間に圧迫力がかかるため、膝蓋骨・大腿骨間の軟骨が痛んでいる場合は手術が出来なかったり、将来的に軟骨が痛む可能性があります。これに対し、OWDTOは膝蓋腱の下で骨を切り、膝蓋骨・大腿骨に圧迫力がかからないため、膝蓋骨・大腿骨の軟骨が少し傷んでいたり矯正の角度が大きくても手術が可能となりました。
実際の手術
まずは関節鏡を行い、膝の状態を確認します。炎症を起こす原因(滑膜、遊離軟骨)を除去し、痛んだ半月板の処置を行います。最後に膝の内側と外側の軟骨の状態を確認し、外側の軟骨が正常であれば、高位脛骨骨切り術に移ります。 高位脛骨骨切り術は脛の骨の内側を切り、矯正した状態で、人工の骨を入れ、金属のプレートを用いて固定します。OWDTOはこれに1本スクリュー固定が追加されます。
Q&A
- 年齢制限はありますか?
- 年齢制限はありませんが、骨が弱い状態の方は出来ない事があります。
- 膝はどのくらい曲がりますか?
- 手術前の角度まで曲がります。痛みが和らぐ事で、手術前より曲がる事もあります。
- 入院期間はどのくらいですか?
- 手術後2週から歩行訓練が可能になり、3週で全ての体重をかけて歩ける様になるので、1ヶ月程度の入院になります。
- スポーツは可能ですか?
- 多くのスポーツが可能です。
- 金属は抜去する必要がありますか?
- 手術後1年から1.5年で抜去します。
その際に、再度、関節鏡を行い、軟骨の状態を確認します。多くが軟骨の再生を確認出来ます。
人工膝関節置換術について
変形が強く高位脛骨骨切り術では矯正できない場合や外側の軟骨が損傷している場合、膝の伸びが悪い場合は人工膝関節置換術の適応となります。損傷した軟骨を含めて骨を切除し、金属の関節と入れ換え、内側もしくは外側に偏った荷重ストレスを膝の中心に戻す手術です。人工膝関節置換術のメリットは術翌日から手術した足に荷重が可能で、歩行練習を開始することが出来ます。リハビリ次第では、早期の退院が可能です。ただ、膝の曲がりは良くても120度程度になることが多く、正座は困難となります。
さらに当院では2022年8月よりROSA Kneeシステム(Zimmer Biomet社)という手術支援ロボットを導入しています。人工関節では膝の内側と外側の靱帯バランスが重要で、どちらかのバランスがきつ過ぎたり、緩すぎたりすると術後の痛みや膝の曲げ伸ばしが上手く出来ない原因となります。この評価がこれまでは術者の感覚によるところが大きかったのですが、ROSAでは術中に靱帯のバランスを数値として見ることができるため、骨切り量や骨切り角度の微調整が可能となり、これまでよりもさらに人工関節の正確な設置が可能となりました。それにより術後成績の向上や入院期間の短縮などが期待できます。
ROSA Kneeシステムの導入に関しては宮崎県では当院が初となります。